国際取引をとりまく法的環境基礎
国際取引の基本構造=主権国家の併立と平等





国際社会を構成するものは、主権国家であり、その主権は、平等である。
この主権平等の原則は、国際連合の基本原則であり、従って、国際社会の基本原則である。

この基本原則に従う限りは、全ての主権国家の同意を得ることなく、その支配領域に適用される
世界的な統一法を立法し、しの実効性を保障するための世界的な統一司法制度を樹立することは
不可能である。このため、国際取引を規制する世界的な統一法は存在せず、
国際取引に関連する紛争を処理する国際裁判所も存在していない。
しかし、主権国家の併立と平等の下における世界的統一立法機関や司法機関は、実現困難であるものの、
世界的な法の統一は、次のような方法により、主権国家の主権との抵触を回避すれば可能である。 (国際取引法要説より抜粋)



@全ての主権国家が加盟する国際条約により特定の分野についての法規範の世界的な統一


A統一法のモデル(模範法)を全ての主権国家が自国法として採択する方法による法規範の世界的な統一















貿易=国際物品売買の分野
国際物品運送の分野

「国際物品売買に関する国際連合条約」が1980年にウイーンで作成され、1988年に発効。
海上物品運送契約に使用される船荷証券について、「1979年議定書により改正された
1924年船荷証券統一条約」(ヘーグ・ウイスビー・ルール)があり、日本を含め先進海運諸国が加盟している。
一方、これと異なる発想によるものとして、「1978年海上物品運送に関する国際連合条約」
(ハンブルグ・ルール)があり、主として発展途上国が加盟している。
他方、国際航空運送については、物品運送と旅客運送とを対象とする「国際航空運送についての
ある規則の統一に関する条約」(ワルソー条約)が、1963年に発効し、日本を含め100か国を超える国が
加盟しており、国際航空運送についての世界的な統一法に近づいている。 (国際取引法要説より抜粋)















模範法による世界的な統一法
国際商慣習の整備「インコタームズ」(Incoterms)
国連の下部機関である国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)が中心となって、国際商事仲裁モデル法、
国際振り込みに関するモデル法を作成し、国連が各国に採択を呼びかけている。

貿易の中心を為す国際物品売買取引については、長時間に渡り反復継続して実施された結果、
欧米の主要な取引センターを中心に、一定の取引類型についての物品の引き渡し場所、
物品についての危険負担、運送の手配、運賃の負担、貨物保険の手配、保険料の負担などの
貿易条件につき商慣習が成立したところである。

しかし、この商慣習は、内容の細部につき地域により差異が見られたので、1930年代から、
国際商業会議所が地域的差異の調整に当たり、1936年に主要な貿易取引類型の貿易条件につき
国際的統一規制を策定して発表した。これをインコタームズ」(Incoterms)となった。
関係者は、その条件略号(CIF・FOBなど)を国際物品売買契約中に表示することにより、
売主と買主の権利及び義務を明確にすることができるようになっており、
取引の迅速化、明確化、効率化に貢献するため、世界的に広く使用されている。 (国際取引法要説より抜粋)














荷為替信用状に関する統一規則及び慣習





今日の貿易においては、代金の決済は荷為替によるのが原則であり、
代金回収を確保するために荷為替信用状が一般的に使用される。

売主が代金回収のために振り出す荷為替を買い取る銀行に対し、買主の依頼により、
買主の取引銀行が、荷為替の決済を確約する書面を差し入れることが一般的に行われるが、
この荷為替の決済を確約する書面が荷為替信用状である。これを、信用状統一規則と略称。

信用状統一規則は、荷為替信用状に関する基本規則、その形式、解釈、譲渡、関係する銀行の
責任と免責などを規定しており、その法的な性質については、当事者が契約中に援用することにより
当該契約の一部となる援用可能統一規則の一種であると解する見解が一般的である。


ニューヨーク州法のニューヨーク統一商事法典は、信用状統一規則が商慣習法であることを認めている。 (国際取引法要説より抜粋)















法的環境の基礎:
国際条約、国際商慣習法、各国法、各裁判所


国際取引及び国際取引紛争を現実に規制している法規範は、
各国が締結した国際条約、国際商慣習法及び各国の国家法であり、
国際取引についての紛争処理に当たるのは、各国の司法機関であるというのが、
世界の実情である。

すなわち、国際取引に関して当事者間に紛争が生じ、その解決が必要となった場合、
国際取引についての紛争の処理に当たるべき国際的な司法機関が現状ではないので、
後に検討する国際商事仲裁などの訴訟外紛争処理制度による場合を除き、
当事者は、原則として、いずれかの国の司法機関に提訴せざるを得ない。
当事者より提訴を受けた司法機関は、国際取引紛争に適用すべき国際的な統一法は
現状では、存在していないので、自国が加盟した条約、国際商慣習法及び自国の法令に従って裁判を行い
紛争の解決を図らざるを得ないこととなる。 (国際取引法要説より抜粋)















国際取引を取り巻く標的環境がもたらす矛盾
裁判所選択の困難と国際的訴訟競合の危険


国際取引紛争の解決を各国裁判所に委ねる場合、後に検討するように、
各国の国際的裁判管轄に関する基準は統一されている訳ではないので、当事者は、
いずれの国の司法機関に提訴すべきか判断が容易でない場合も出てくる。
また、場合によっては当事者それぞれ個別の国の司法機関に提訴して
国際的な二重訴訟となる危険性もある。

当事者より提訴を受けた司法機関は、国際取引紛争に適用すべき国際的な統一法は現状では
存在していないので、自国の法令に従って裁判を行い紛争の解決を図ることとなる。
また、当該国際取引紛争に適用される法令を予測することは必ずしも容易ではない。 (国際取引法要説より抜粋)















国際取引関係者の対応:
訴訟外紛争処理制度と自主規範



上記のような矛盾が存在する法的環境の中で国際取引に従事せざる得ない関係者は、
予測/計算可能性の基盤の上に営利事業を行っている者であるから、こうした不確定要素の多い
法的環境を放置することは、自らの事業活動に不利であるので、自衛行動に出ざるを得ないことになる。




@国家の司法機関への依存を少なくして紛争処理を図るための訴訟外紛争処理制度
 (Alternative Dispute Resolution:ADR)の利用



A各国法への依存を少なくするために、国際取引に使用する契約の内容を周到に検討して
 自己完結的な契約書を作成しようとする努力





B本来国家とは、無関係に取引関係者の間において生成発展してきた国際取引についての商慣習を整備して、
国際取引を規制する自主規範を国際的統一規則や国際的標準契約書式または約款といった形で
確立しようとする動き





しかしながら、国際取引関係者による自衛手段は、あくまでも関係国の国家法が許容する範囲内において
のみ有効に機能するものであり、国家法を超越したものではない為、国際取引紛争の解決は最終的には、
国家の締結した条約、国際慣習法または国家法に依存せざるを得ないのが現状である。 (国際取引法要説より抜粋)



































次に国際取引法の内容について説明しよう。













































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